東の院生、不死の連隊に出会う

先日モスクワ郊外の公園を歩いていたら、自転車に乗った子供2人がこっちを見るので、「中国人!」とか言ってくるんかな、などと予想していたところ、「平和万歳!」「王様!」と言われた。どうしてわたしが平和万歳王国の国王だとわかったのか。子供の澄んだ瞳には真実が映ったのかもしれない。いっぽう、今これを読んでいる世間ずれした大人のあなたの目は、まるで擦りガラスのように濁っている。悔い改めてください。

平和万歳といえば(?)ロシアの5月9日は「戦勝記念日」、すなわち第二次世界大戦における独ソ戦勝利を祝う、1年でもっとも重要な祝日なわけです。第二次世界大戦がどこで終わったといえるのか、戦勝国の間でもいろいろと見解の相違はあるみたいですが、とりあえずロシアではナチス・ドイツを打倒したこの日が大きくクローズアップされるのですね。当然のことながら日本の戦争関連イベントとは違い、文字通りのお祭り騒ぎ。

(写真:ロシア国旗の色の煙を吐きながら赤の広場の方角へ向かう戦闘機)

じつは2013年にモスクワに滞在していたときも、この戦勝記念日のパレードは一度見たのですけど、どうやらそのときに見た軍事車両のパレードが、2015年に本格始動した「不死の連隊」というやつに置き換えられたみたいで、雰囲気がだいぶ変わっていました。国民総出の祝祭感がより濃くなっていた。

不死の連隊とはなにか? 不死の連隊とはこれです → 毎日新聞「検証・ロシアの今/3『戦争を耐え抜いた記憶』『不死の連隊』思想」

(写真:2013年の戦勝記念日

(写真:2018年の戦勝記念日「不死の連隊」)

自分の家系の「英雄」(すなわち従軍した祖父とか曾祖父とか)の写真と名前、どこで従軍したか、いつ亡くなったかといった情報を載せたプラカードを手に、ものすごい数の人々が赤の広場に続く大通りを練り歩く。『ゲンロン7』のロシア特集で平松潤奈先生がこれに言及していたので、見られるもんなら見ておこうと思っていたのですが、なるほど、戦車が目の前をただただ横切っていくよりはある意味よっぽど平和的で、国民としての当事者意識みたいなものも涵養されそうだし、国側としては賢い戦略だよなあという印象は持ちました。

とはいえこちらとしては、なんというか、戦敗側でありますから、連隊から自然発生する大音量の「万歳!」に声を合わせていいものかどうか、終始もじもじしておりました。ま、平和万歳ならそれでいいんだけど。

(写真:炊き出しでふるまわれた蕎麦の実と牛肉のカーシャ)