モスクワの本屋

モスクワに「ツィオルコフスキー」という本屋があって、2013年にしばらくモスクワに滞在していた折は、地下鉄駅でいうとルビャンカという、かつてのKGBソ連国家保安委員会)、現在はFSBロシア連邦保安庁)の本部があるモスクワの中心部のビルの1階に、かなり広い売り場面積で人文系の専門書*1を手厚くそろえていた。ところが帰国後しばらくしてからもう一度行ってみたら、もぬけのから。潰れたんかいと残念がっていたら、ノボクズネツカヤという中心部の別の駅近くの、日本だったら建築許可が下りないんじゃないかという、ぐらぐらの4階建ての最上階に移っていつの間にか営業再開していた。

f:id:mochigome_xpc:20180817031538j:plain

ツィオルコフスキー」の本棚

別に地震が起こるでもなし、ぐらぐらなのは構わないのだが、それにしても一見したところエレベーターもない建物の4階に、いったいどうやってあれほど大量の本を運び込んだのか、謎でしかなく、なんらかの超自然的かつ本好きな力がおもむろに手伝いを買って出たのではと想像をたくましくしてしまう。ま、なんにせよ復活してくれたのはうれしい。存在を知らない人がたまたま見つけてふらっと入れるような立地ではまったくないけれど、大体いついってもそれなりに客はいる。

モスクワの本屋というと、「ドム・クニーギ」「ビブリオ・グローブス」「モスクワ」という3店舗が売り場面積的にはでかくて、ロシア経験のある方々がジュンク堂紀伊国屋書店にたとえる場面も見聞きしたことがあるのだが、趣味の本や実用書などは別として、人文系の専門書の品揃えに関しては案外目配りが効いておらず、ここ一店舗で大満足!という感覚にはほど遠い。専門書はそもそもの発行部数が少ないうえに、ロシアの場合、結構な有名作家や批評家の書籍ですら、数年前に出たものでもあっさり手に入らなくなることが頻繁にあり、それは大型書店であっても例外ではない。これはもう本屋のせいというより、ロシアの出版事情全体に関わってくることではある。人文書に限っていえば、さきほどのツィオルコフスキーともうひとつ、トベルスカヤ通りの「ファランステル」というところのほうが、掘り出し物との意外な出会いは多い。ロシアは本屋によっても値段が違うし(大型店舗は基本的に高い)、足を使って探し回っているといいことがある、こともある。

もっとも僕という人間には、西部開拓時代のアメリカに生まれていたとしても5秒で定住を決意していたであろうほど開拓精神が欠落しているので、いうほどがんばってモスクワの本屋情報を網羅しようとしているわけではない。だから、もっともっといい本屋がモスクワのどこかに眠っていて、それを見落としているのかもしれない。インディアンだけが知る秘密の本屋があるなら、教えてインディアン。

 

*1:それ以外の専門については、きちんと見たことがなくわからない