あなたは金魚

妻がなく子がなく友がなく趣味がなく仕事場でしか人間関係がない40代男性は孤独に苛まれ泣き暮れて誰にも気づかれず干からびていくほかない。そんな人間は、水槽から飛び出てミイラ化していく金魚のようなものだ。惨めだ。そんな記事をウェブ上で読んだ。そんな記事ではなかったかもしれない。

我と我が身を顧みるに、私には仕事場での人間関係すらないし、趣味らしい趣味もないので、なるほど一人住まいのアパートで座して四顧して死を待つ以外にできることなど今後ないのかもしれないと思う。それでは悔しいので、絶対みんなを(海苔で)巻き込んで死んでいきたい。

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ぎりぎり趣味らしいことといえば古本屋を巡ることくらいだが、もはや趣味というよりは自動化された人生の一行程という感じだし、なにより古本屋を巡っても友達はできない。私のほうからして、平日の昼間から古本屋をひやかしている人々を憐れんでいるからである。ジョギングとか登山とかテニスとか乗馬とか料理とか裁縫とかカフェ巡りとか海外旅行とか婚活とか筋トレとかスキューバダイビングとか野焼きとか、とにかくもっと健康的な趣味を見つけるべく努力すべきだと思う。

にもかかわらず、吉祥寺に映画を見に出たついでに古本屋に寄って、マヤコフスキーの翻訳の文庫版を見つけた。こんなものが出ているのはまったく知らなかった。訳者の「ウサミ ナオキ」さんという方についても何も知らなかったのでネットで調べてみたが、1928年生まれでロシア語のみならずだいぶいろいろと翻訳をされていた方のようだ。20世紀の在野の左翼知識人たちの歴史や業績も、金魚のミイラのようにどんどん風化していってしまう。

うさみ なおき - Webcat Plus

マヤコフスキーの翻訳は1952年に大月書店、1965年に思潮社から出版され、1977年に再度大月書店で文庫化されている。Amazonで非人道的な高値がついていると思ったらどうも見間違い*1で、普通に捨て値で売られてるっぽいので、どうしてもマヤコフスキーの翻訳を国民文庫版で読みたいという奇特な方は買ったらいいと思うし、奇特じゃない方は買わなくていいと思う。

『鉄の流れ』のほうは、先日単行本を下北沢の古本屋で見つけて買おうかどうか迷った末に見送ったのだが、こちらも新潮文庫から出ていたなんてことは知らなかった。知らない知らないばかりでこの先ほんとに生きていけるだろうか?単行本のほうは西本昭治訳だったが、文庫はごぞんじ工藤精一郎訳。

ちなみに映画は『リコリス・ピザ』を見た。ピッツァ。

*1:Amazonの商品検索のアルゴリズムがどうなっているのか知らないが、同じ名前で検索しても、29800円の商品一点しか出てこないときと、1円の商品が複数出てくるときがある