破壊

Q. 上は大水、下は大火事、なんだ?

A. 恋

(理由:人を好きだという気持ちは火と水が入り混じるそのちょうど真ん中にあるから)

『負けヒロインが多すぎる!』は、第3話の小鞠ちゃんの告白シーンが衝撃的過ぎて4話以降を見るのを一旦やめていた。

私は知っている。これはオタク特有の恋愛ムーブ「イキ告」だ。地震や台風が、自らの発生を丁寧に人々に通告してから発生しないように、オタクの恋も自らの限界を前もって告げない。オタクには筋力がないから、自分の精神の手綱すら上手に握れない。野生を飼い慣らす術を知らない。かくしてそれは突如として臨界点に達する。

以下に述べるのは近ごろ私が発見した俗流脳科学の知見だが、脳は「感動」と「辛苦」を同じ性質のものとして処理している。更科瑠夏にとって恋のドキドキがすなわち心臓への負荷であるのにも似て、強すぎる感動は大きすぎる悲しみと同じく脆弱な人間精神にとっては過度な負担にほかならない。最近、映画でもアニメでも、あまりに強い感動を覚えると、過去の嫌な記憶が同時に脳裏にちらつくようになった。心の揺れを感じ取る脳の部位がショートしそうになるのを、脳に残った冷静な部署が押しとどめるかのようだ。これが上記の知見の唯一の証拠だが、疑いない事実だ。

しかし恋愛は、脳に巣食って平穏と怠惰を貪らんとする小役人どもを蹴散らす。小鞠ちゃんのイキ告は、この上なく感動的であるがゆえにこの上なく大きな反作用で私の心にぶちかましてくる。好きな人に張り手を食らわされると知って、それでも土俵に上がる、そういった覚悟で私はアニメを見る。なぜなら小鞠知花はそうしたからだ。

制限時間いっぱいです。

明け方までアニメを見、興奮のあまりそのまま映画館に濱口竜介『THE DEPTHS』を見に行った。幸せだと思った。言うて『THE DEPTHS』はそんなにはおもしろくなかったのかもしれない。おととい見た同監督『何食わぬ顔』の、

「夏めく」の次は「ナツメグ」ですよ?

が何もかも攫っていったからである。