読書

嵐を呼ぶアファーマティヴ・アクション帝国の逆襲

クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』では、登場人物が"Russian"と発声している箇所が、字幕ではことごとく「ソ連の」と訳されており、気になった。嫌だった、と遠回しに主張しているのではなく、単純に気になったのである。それを見るちょうど…

最速!アルマトイの書店情報を取って出せ

何に比して「最速」なのか、疑問に思う向きもあるだろう。しかしそういうことを考え始めてしまう時点で、あなたはすでに最速から一歩遅れを取っている。現代では、生き馬の目を抜いている人間の戸籍を勝手に抜いておくくらいでないと、最先端の競争からは取…

僕の地球をマムって

訳者の先生にいただいてしまった。 そもそも、私のようなものが本をもらってもいいのだろうか。本は紙でできているというのに。 自慢がしたいわけではない。義によって宣伝をしなくてはならない。ただ単純に、マムレーエフが日本語で読めるというのは画期的…

2016年のかぼちゃビール

コンビニで「芋」ビールを見つけた。最初は芋焼酎のソーダ割りかなにかかと思ったが、パッケージに「ホップ」とあったので、ビールと分かった。 これを飲んで思い出したことがある。7年ほど前、金はなく、それでもなんとかして日々の生活にアルコールの彩り…

読むな!読め!甦れ!

10年くらい昔の話、「世界文学」というタームが界隈で地味な流行の兆しを見せていた(?)とき、当時の私は「翻訳」とか「越境」とかそういった問題系にあまり興味がなかったので、「またなにかメリケンから思想の黒船が来とるワ、開国シテクダサイ」と斜に…

やさしい おんな やさしくない おんな そんなの ひとの かって

6月11日で公開期間は終了してしまったが、とある映画配信サイトでウクライナやジョージア、ルーマニアなどの日本未公開映画を配信していて、そのラインナップにロズニツァの未見の作品が含まれていたので視聴した。こういうのは地方住まいの人間には本当に便…

逃げろペプシマン!

その昔、ロシアには憂いを知らぬ若き世代が確かに暮らしていて、夏に、海に、太陽に笑みを送ると ―〈ペプシ〉 を選び取った。 *1 先ず一番に考えられる原因は、ソヴィエト連邦のイデオローグたちが真理は1つきりしかないと考えていたことにある。そのため〈P…

広告(副音声)

『現代ロシア文学入門』が今日出るので、ひとり勝手にオーディオコメンタリーを書こうと思う。「オーディオコメンタリーを書く」とは? 私は批評家レフ・ダニールキン(1974~)の「クラッジ」という論文(原文に註や参考文献はないので、日本では「批評」に…

むみんスイッチ

ウォン・カーウァイ『花様年華』を見た。 他人の不倫には毛ほども興味がないので見ている間じゅうひどく眠くて、それで思い出したのだが、以前『恋する惑星』を家で見ていた時も眠くてたまらなかった。カーウァイ作品は私の生の奥深くに手を差し込み、そこに…

自分の命の存在が外国に行っていない

2022年の年明けてちょっとしたくらいに珍しく父から連絡があって、「大学時代にサークルでお世話になった先輩がロシアについての本を出した。買うとよい(私はもらったが)」とのことだった。そっちはもらったんかい。 冒険のモスクワ放送: ソ連“鉄のカーテ…

確かめたのなら伝説じゃない

私は、何やら黒くて軟らかく、ねばっこいものを食べたのだが、しかし、それが何であるかわからなかった。*1 『ゴンチャローフ日本渡航記』より 由あってゴンチャロフの『日本渡航記』を読んだ。ゴンチャロフの『日本渡航記』を読まねばならない"由"とはいっ…

翼よ、あれがポロの火だ

先日、初台にある「シルクロード・タリムウイグルレストラン」に行った。 一足先に到着していた友人によると、その日はトヨサキさん御一行のパーティにより席が予約されているとのことで、私と友人は、おそらく普段は誰も座らないのであろう(※店員さんがめ…

とっても大好きコルネリア

「じゃ、没落の後は、なにが来るのかしら?」 ファビアンは、鉄格子のうえに垂れている小枝をむしり取って、こう答えた。「愚かさが来るんじゃないか、と心配してる」 (ケストナー『ファビアン:あるモラリストの物語』より*1) 『さよなら、ベルリン:また…

飯のことで喧嘩すな

ロシアの批評家コンビ(現在は解消)であるゲニスとワイリという人が書いた『亡命ロシア料理』という本があるが、1年ほど前にこの中の「帰れ、鶏肉へ!」という料理を実際に作ってみたという人の発言がSNS上でバズっていた*1。この本はそれ以前にも一度大き…

「下北沢に住んでます」と言ってもギリギリ嘘にならない距離に住んでる

よって、私が『街の上で』とかに憧れるモテ乞いサブカル色懺悔野郎なら下北沢住みを僭称するということもあるだろうが、私には自制心というものが備わっているのでそんな愚かな真似はしない。古川琴音かわいい。 仕事ついでに下北沢で飯を食い、古本屋に寄っ…

サラダ文化の貧困、スカイブルー帝国の無邪気さ

都会は狭い。 そしてその居心地の悪さは、繁華街のコーヒーショップチェーンにおいて最大限発露する。スタバだろうがドトールだろうがエクセルシオールだろうが、お昼時を過ぎて皆が一服しようかという頃合いになると、押すな押すなの大騒ぎで、まともに席が…

Dear Comrade Girls!

ちょい前の話になるが、今年のお正月休みに、話題作の逢坂冬馬 『同志少女よ、敵を撃て』を読んでいた。 同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon ミリタリーもののエンターテインメントに対しては若干の苦手感があるので、普段こういったタイ…

「ロシアの村上春樹」という例のあれについて

時すでに2018年春。もはや脈絡もタイミングもあったものではないけど、それでもわたしは「ロシアの村上春樹」というやつについて一言申し述べておきたいのであります。 ヴィクトル・ペレーヴィンといえば、『宇宙飛行士オモン・ラー』や『チャパーエフと空虚…