マジで美味い。
ひょっとすると、あなたの味覚にはさほどマッチしないのかもしれない。いつの頃からか、どれだけ優れたものであってもこういった留保抜きで他人にそれを薦めることはリスクになってしまった。だが、このサラダに関しては間違いなくおいしい。おいしくないと判断する者のほうが誤りを犯している。ひとたび食べれば、金子みすゞでさえ自身の正しさに固執するようになるだろう。かつて日本のサラダ文化の貧しさを嘆いたこともあったが、そこになにかひとつの回答がもたらされたような気さえする。
そもそもトマトが好きだ。「おふくろの味はなにか」と尋ねられた際「トマト」と答えて母を落胆させたこともあるくらいだ。トマトが嫌いだと面と向かって言ってきた相手を、逆上してトマト色に染め上げることもしばしばだ。トマトにあらずんば人にあらず。トマトなくして課税なし。
ただでさえ美味いトマトが、幾何学的な形を取り薄氷のような甘みをたたえたレモンのエッセンスと和えられ、今まで誰も考えつかなかったのが不思議なほどの調和と均整を見せている。数学の定理が見出される瞬間というのもこういうものなのかもしれない。
夏場に店頭で発見してからは、セブンイレブンに行くたびに買ってバクバク食っていた。セブンの商品を褒めるなんて俗だと思いつつ、家族にも薦めまくった。それが9月の中旬に入って見かけなくなり、ひょっとして夏期限定の商品だったのかとうなだれた。儚い。まるで夏の妖精のようだ。ちなみに夏の妖精は採れたてに限りなく薄く衣をまとわせたうえで油でサラッと揚げると美味い。
哀しみに打ちひしがれ、下ばかり向いて生きていた。そうして今日コンビニに足を運ぶと、実に復活していた。
こういう天上の露みたいなものだけを食って生きられたらどんなにいいだろう。わたしたちは蛍ではないから、そういうわけにはいかない。しかし、人類はまだその段階に達していないだけで、いずれそうなる。生の低次のレベルを克服した人間のお尻はやがてまばゆい光を放ち始め、空気中に甘い夢の輪郭を象るようになる。