ロシア

嵐を呼ぶアファーマティヴ・アクション帝国の逆襲

クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』では、登場人物が"Russian"と発声している箇所が、字幕ではことごとく「ソ連の」と訳されており、気になった。嫌だった、と遠回しに主張しているのではなく、単純に気になったのである。それを見るちょうど…

食べればナイトメアが必ず見れる

変な時間に寝ると変な夢を見る。みじめな我々の住む有為転変の世界では常識である。 ① 生家の玄関先に立っている。ふと空を見上げると、羽をたたんだままこちらに滑空してくる鳥と、しっかりと目が合う。私を睨んでいるかのようだ。鳥はそのまま我が家の植え…

ナマスカラーム、親しからむ男女

カレー屋で隣の席に、友人以上恋人未満みたいな男女が座っている。男がずっと仕事の苦労話や心構えを語り、女が半分くらい敬語を混ぜながら応答している。これは愛なのだろうか?隣席のカップルの会話など聞くな、という話だが、聞くともなくすべて耳に入っ…

僕の地球をマムって

訳者の先生にいただいてしまった。 そもそも、私のようなものが本をもらってもいいのだろうか。本は紙でできているというのに。 自慢がしたいわけではない。義によって宣伝をしなくてはならない。ただ単純に、マムレーエフが日本語で読めるというのは画期的…

秋風や水に落ちたる空のいろ――「十月の草稿は忘却の彼方に」篇

昨年10月、東京国際映画祭に行った。その後、そのとき見た『Air』という作品の評を書こうとしたのだが、ほかの戦争映画との比較とかしないとダメかなあ……と身構えすぎたため身動きが取れず、結果つまらない感想文が出力され、放置されていた。 「明日やろう…

С наступающим Новым годом!

なんの気なしにロシアのマガダンという町のストリートビューを眺めていたら、日本語が書かれたトラックを発見した。 いったいどのような経路で、はるばるこのパルコヴァヤ通りまでたどり着いたのだろう。どんな人が、何のために買ったのだろう。2021年の画像…

ドス禁

以前家族から「ドストエフスキーはソ連でどのように読まれていたのか」と問い合わせがあった。そういうことは私でなく当事者であるドストエフスキーかソ連に問い合わせるべきだ。 どうしてそんなことになったのかというと、SNS上で「ドストエフスキーはソ連…

私の頭の中の白無垢

富山県は入善(にゅうぜん)町に「下山」という地域がある。読み方を「にざやま」という。 という、などと偉そうに言っているが、そこに「下山芸術の森 発電所美術館」というものがあるという情報を得たときは当然「しもやま」と読むものと思ったので、調べ…

ほんとの日付は秘密だよ

先日見た『ジェントル・クリーチャー』にも出演していた Лия Ахеджакова という女優と誕生日が同じだということを、Facebookで流れてきた投稿を見て偶然知った。知って、なんとなく嬉しかったのだが、誰に伝えたところで伝わるでもない。ためしにここに書い…

やさしい おんな やさしくない おんな そんなの ひとの かって

6月11日で公開期間は終了してしまったが、とある映画配信サイトでウクライナやジョージア、ルーマニアなどの日本未公開映画を配信していて、そのラインナップにロズニツァの未見の作品が含まれていたので視聴した。こういうのは地方住まいの人間には本当に便…

確定申告を考え出したやつは本作を見て出直したほうがいい

映画『コンパートメント№6』の冒頭、主人公のラウラがモスクワで参加しているパーティで、参加者のひとりがペレーヴィン『チャパーエフと空虚』(1996)の一節を引用する。これは小説の主人公ピョートル・プストタが、彼の担当医である精神科医チムール・チ…

あなたがたがいてくれること、いてくれたこと、そしてこれからもいてくれるであろうことに!

渋谷のシアター・イメージフォーラムというのは不思議な映画館で、「不思議」というのはこれでもかなり曖昧な言い方を心がけているのだが、ほかの映画館ではあまり見ない事態に遭遇する確率が高い印象を持っている。そもそも多くのお客さんをさばくために設…

逃げろペプシマン!

その昔、ロシアには憂いを知らぬ若き世代が確かに暮らしていて、夏に、海に、太陽に笑みを送ると ―〈ペプシ〉 を選び取った。 *1 先ず一番に考えられる原因は、ソヴィエト連邦のイデオローグたちが真理は1つきりしかないと考えていたことにある。そのため〈P…

サクサクやれ

友人と飲んでいたら、2008年の夏にその友人とふたりでモスクワとペテルブルクを旅行した時の写真のデータをもらった。友人は着いたその日にデジカメを地下鉄内でスられたはずなので、撮ったのは私だが、パソコンが壊れたりなどした際にどこかにいってしまっ…

広告(副音声)

『現代ロシア文学入門』が今日出るので、ひとり勝手にオーディオコメンタリーを書こうと思う。「オーディオコメンタリーを書く」とは? 私は批評家レフ・ダニールキン(1974~)の「クラッジ」という論文(原文に註や参考文献はないので、日本では「批評」に…

それはぼくの思い過ごし わるいことばかり思いつく

9月4日(日曜日)、近所の駅で油そばを食っていたら暇だったので、存在に気づいて、近所の別の駅のBOOKOFF(ブックオフ)にチャリで追突した。学生のときに(学生時代、それは長い)、ダルさがすごくて、散歩がてら近所のBOOKOFF(ブックオフ)にしょっちゅ…

ドゥーギンおよびドゥーギナの件に寄せて

ロシアの右派思想家アレクサンドル・ドゥーギンの娘で、哲学者・ジャーナリストのダリヤ・ドゥーギナ氏が、現地時間20日21時過ぎ、父子で参加したイベントからの帰路に自家用車に仕掛けられていた爆弾により亡くなったそうだ。 「誰がやったのか」という最大…

自分の命の存在が外国に行っていない

2022年の年明けてちょっとしたくらいに珍しく父から連絡があって、「大学時代にサークルでお世話になった先輩がロシアについての本を出した。買うとよい(私はもらったが)」とのことだった。そっちはもらったんかい。 冒険のモスクワ放送: ソ連“鉄のカーテ…

確かめたのなら伝説じゃない

私は、何やら黒くて軟らかく、ねばっこいものを食べたのだが、しかし、それが何であるかわからなかった。*1 『ゴンチャローフ日本渡航記』より 由あってゴンチャロフの『日本渡航記』を読んだ。ゴンチャロフの『日本渡航記』を読まねばならない"由"とはいっ…

のっぽさん

先日のふざけた感想群と一緒にするのも気が引けたので別枠となったが、『戦闘と女の顔』はとてもよかった。 監督自身がインスパイアされていると言ってはいるものの、邦題はやり過ぎなほどアレクシエーヴィチの著作に寄せられていて、なんか紛らわしい。原題…

飯のことで喧嘩すな

ロシアの批評家コンビ(現在は解消)であるゲニスとワイリという人が書いた『亡命ロシア料理』という本があるが、1年ほど前にこの中の「帰れ、鶏肉へ!」という料理を実際に作ってみたという人の発言がSNS上でバズっていた*1。この本はそれ以前にも一度大き…

あなたは金魚

妻がなく子がなく友がなく趣味がなく仕事場でしか人間関係がない40代男性は孤独に苛まれ泣き暮れて誰にも気づかれず干からびていくほかない。そんな人間は、水槽から飛び出てミイラ化していく金魚のようなものだ。惨めだ。そんな記事をウェブ上で読んだ。そ…

カーチャとワーシャ、学校に行く

『ヘィ!ティーチャーズ!』というロシア映画を見た。 原題は『カーチャとワーシャ、学校に行く』"Катя и Вася идут в школу"だそうで、モスクワで学んだ2人の若い教員が地方の学校に赴任して苦闘する1年を追っかけたドキュメンタリー。東京では渋谷のユーロ…

われらがピオネールの掟

わけあって"честное пионерское"という言葉の意味を調べていたら、歌に出会った。"честное пионерское"の意味を調べなければいけないわけとはいったい何だろう?そんなことは知らぬ存ぜぬ顧みぬ。 www.youtube.com ピオネールに誓って まるで兵士の宣誓ピオ…

「下北沢に住んでます」と言ってもギリギリ嘘にならない距離に住んでる

よって、私が『街の上で』とかに憧れるモテ乞いサブカル色懺悔野郎なら下北沢住みを僭称するということもあるだろうが、私には自制心というものが備わっているのでそんな愚かな真似はしない。古川琴音かわいい。 仕事ついでに下北沢で飯を食い、古本屋に寄っ…

ハリウッドをやっつけろ!〜熱闘編~

みんなが見た映画をただ順番に言っていく。そういうコミュニケーションを取ったほうがいい。取らないよりずっといい。 金曜日に『ナワリヌイ』を見た。毒殺は本当にダメ。毒殺を許すな。 先週の日曜日には『トップガン マーヴェリック』を見た。アメリカ映画…

2017年12月14日「スーパープーチン」展

『現代思想』のウクライナ特集で、プーチンを題材にした文学作品についての論考を眺めていて、唐突に思い出したことがある。人生というのは常に唐突なものですね。明日あなたも本屋で見かけた黒いワンピースの女の子に唐突に恋に落ちたりその子が実は彼氏と…

サラダ文化の貧困、スカイブルー帝国の無邪気さ

都会は狭い。 そしてその居心地の悪さは、繁華街のコーヒーショップチェーンにおいて最大限発露する。スタバだろうがドトールだろうがエクセルシオールだろうが、お昼時を過ぎて皆が一服しようかという頃合いになると、押すな押すなの大騒ぎで、まともに席が…

Dear Comrade Girls!

ちょい前の話になるが、今年のお正月休みに、話題作の逢坂冬馬 『同志少女よ、敵を撃て』を読んでいた。 同志少女よ、敵を撃て 作者:逢坂 冬馬 早川書房 Amazon ミリタリーもののエンターテインメントに対しては若干の苦手感があるので、普段こういったタイ…

晴ればかりの国、雪ばかりの国

この春小学校に上がった甥がいて、すでに述べたとおり小1なので、つい先日生まれたばかりのような気がしていたのにあっという間に6年の月日が経っており時の流れすごい早い。この6年の間、みなさんの若さのうえにもきっちり6年分の無慈悲な雨が等量降り注ぎ…