『ジガルタンダ・ダブルX』はけっこうおもしろかった。よく行く映画館の音響が今日はひどくて、若干音が割れていたのが残念(というか、映画館で音が割れているなんてはじめて)だったが、こういう誰に言うほどでもない辛さの思い出というものも、いつか雨の中の涙のように消えていくものなのだろうか。
予告編だけ見るとなんだかドタバタコメディ感がすごいし、実際前半(インド映画の尺は3時間くらいが基本で、インターバルを挟んで前半・後半がくっきり分かれることが多い)はそんな感じなのだが、後半からどんどんと社会派の物語になっていき、前半でやっているドタバタに別の意味が付与されていくという構造になっている。予告編はそういった映画の魅力を十分伝えていないように見えるが、ある種の伏線回収・どんでん返し的な演出ということで敢えて秘されているのかもしれない。それにしてもインド映画を見ていると、「警察=民衆に暴力を振るう職業」という見方がどんどん強化されていく。間違っちゃないのかもしれないが。
先日見た『SUPER HAPPY FOREVER』はそれなりにおもしろかったが、2024年にもなって我々はまだ、女が死ぬことで男がはじめてものを考え始める物語と妥協して生きていかなくてはならないのか?という不満がある。世間ではとても評判がいいらしい。私は、なんてミニシアターっぽいんだ!と思った。こういう映画を褒めていると自分が砂糖水で溶いた片栗粉のような薄甘い存在になっていきそうで怖い。
そうかと思えば『HAPPYEND』では生徒が皆で古式ゆかしく佐野史郎に反抗していたので、『ぼくらの七日間戦争』を見せられているのかと思った。『SUPER HAPPY FOREVER』と同じ日に見たので温度差がすごかった。『SUPER HAPPY FOREVER』と異なりこの世界の警官はきちんと暴力を振るいそうである。
『ジガルタンダ・ダブルX』を見た帰りに軽く飲む。ホップ入りの日本酒という変わったものがあったので注文したら、激しく紫である。店員さんはインド映画を見たことがないらしく、「やっぱ踊るんですか?」と聞かれたので、「踊ってから暴力を振るうか、暴力を振るってから踊るかです」と答えておいた。そういう偏見ともインド人は日々戦っている。