季節は秋。木々の葉っぱもすっかり色づきました。狐の色はきつね色、狸の顔はたぬき顔。
(………)
(…………)
(……………ん)
声?
(………び太くん………ケテ)
聞き覚えのある声?
(のび太くん……助けて……)
え、ドラえもん?
(のび太くん、すべてを助けて、君の網膜を「生命の投網」と仮定した場合、君の瞳を通過する光は魚、重油まみれのエーテルの世界を泳ぐ見えない魚の短い命を救って、命をあるがままに燃やして明滅する魚たちを軽んじるすべての勢力に抗して、君の考える「救い」の形に従って、君だけが知る自由型の泳法を発明して、自然界にしか存在しない曲線をなぞるように巡って、「可視の海」と「不可視の海」の諍いを調停して……)
ドラえもんこんなこと言う?違う人?
親戚の結婚式で横浜に行くことになった。普段あまりそちらの方角に用事がないのでこれはちょうどいい機会と思い、川崎市にある藤子・F・不二雄ミュージアムに足を延ばすことにした。
まず言っておくべきこととして、藤子・F・不二雄ミュージアムはおじさんが一人で行くところではない。周りの客は基本的に子連れの家族か、カップルか、海外からの観光客である。想像してみてほしい、いい歳をしたおっさんがにぎやかなカフェの片隅でドラえもんハヤシライスを一人で食べているところを。当該の施設が私に強い疎外感を感じさせたことを許せるだろうか。
許す以外の道はない。壁面のQちゃんがかわいいから。
お土産もたくさん買えたし、いいところだった。あなたも行ってみるとよい。あなたが私と同じ小汚い孤独なおっさんだったとしても、あなたの目を通過する光にとってはどうでもいいことだ。