将棋魚津

「良い女の子は天国に行ける。悪い女の子はどこにでも行ける」。しかしそれを言うなら、車を持ってるおっさんはその心根の善悪にかかわらず大抵の場所には行ける。おっさんがどこに向かおうが、ほとんどの人の興味を引かないだけである。

というわけで(?)、となりのとなりの町に藤井聡太が来るというので見に行った。藤井聡太がどこに行くのかには、みな興味がある。

結果として本局は持将棋(引き分け再試合)だった。人生で初めて見に行ったタイトル戦が持将棋というのは、試合観戦それ自体の経験としては正直退屈だった(持将棋が見たくて来ました、という将棋ファンはいないだろう)。ただどうやらプロレベルだと、今回用いられた戦法の研究が煮詰まりすぎた結果、もはや持将棋引き分けという結論しかないのでは、とちょっとした騒ぎになっているようで、そういった観点からは大変面白いものを見られたと言える。

大盤解説会に来たのは初めてだったが、これが藤井効果なのか、おばさんのグループもいたし小さい子も結構いた。将棋という競技の性質上、長時間にわたって弛緩した時間が流れるイベントであるため、コーヒーが一杯タダだったり、じいさんがコーヒーを配る列に割り込もうとしたり、餅を売っていたり、子供が飽きてロビーで遊んでいたり、親に必死に持将棋のルールの解説をする少年がいたり、おそらく目の見えない人が特製の将棋盤で棋譜を再現していたり、みんな思い思いに過ごしていて、いい意味でエンタメとしての強度が高くない、気の抜けた催しだなと思った。私は近くで買ってきたミスドのドーナツを休憩時間に食っていた。退屈だったとか気の抜けたとか勝手なことを言っているが、機会があればまた行ってみたい。次に藤井聡太がやって来るのは、あなたの街かもしれません……。