将棋すな

珍しく対面で将棋を指した。

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その日初めて会う人と将棋を指すというのがあまりに久しぶりすぎて(そもそも最近は「人と初めて会う」機会自体がほぼない)ほんとに緊張して、今俺は「社会」をやっているというハードな手ごたえがあった。盤を挟んだ方の中には比較的最近将棋を始められたばかりの人もおり、そういう場合は駒落ちハンデ戦)を行ったのだが、ふつうに最後の最後で頓死(こっちのミス)で負けて恥ずかしかった。「錯覚いけない、よく見るよろし」というやつだ。

普段ネット将棋をやるはやるのだが、それってだいたい一局10分20分ぐらいで終わるとてもインスタントな経験で、そこに十分なやり甲斐、勝利の喜び、健全な達成感、明日への希望、果たすべき義務、ずっと続くと信じていた未来、淡い恋心、焼かれた故郷、過ぎ去った日々の追想、残されたロザリオ、優しかった祖母のレシピ、復讐の決意、旅立ちの朝、戦いの中で生まれる友情(以下略)などが介在する余地はない。であるからして、昼に集まって夜までのんびり将棋を指しているという事態自体にとても心地よい疲れを感じた。昔なぜかモスクワで将棋大会に出場して1日将棋を指し、トロフィーとして精巧な模造刀をもらい、めちゃくちゃ緊張しながら地下鉄で持って帰ったことを思い出した(金属探知機で引っかかったら最悪しょっぴかれてもおかしくないと思ったので)。

モスクワで警官に取り囲まれていたら、抜刀して応戦する必要があった(なかった)

事後に瓶ビール。ふつうに「好きな棋士誰ですか」みたいな会話で盛り上がってしまい、「森でひとり孤独に暮らしていたオークが人里に降りてきたら案外優しくしてもらえた」のとぴったり同じ感慨を味わった。

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