東京都醪涅槃区に引っ越し、人生で初めて区民となった。厳密にいうとまだ住民票は移していないので、紙の上では茨城県Тыва市民なのだが、そういうお役所的で血の通っていない無味乾燥な手続き上の話はしていない。そういうことばかり気にしているうちに、都会の人間たちは心を失くしていく。針の上で天使が何人踊るか知らないが、今この区内で俺だけが踊れる踊りを俺は踊っている。大事なことはそれだけだ。
とはいえ、知らない駅の知らないスーパーマーケットに寄ることもまた大事なことではあるので、降ったりやんだりの雨の隙間を縫って駅前のスーパーに出かける。しかし入ったはいいが、生鮮食品売り場が見当たらない。そんなスーパーがあってたまるかと呪詛の言葉を並べていたところ、それが近くの女性の耳に入ったようで、無言で指をちょいちょいと下に向け、地下が売り場であることを教えてくれた。都会にも心がないわけではないのだ。
さっそくふかふかのビールを飲む。
